精度の高いターゲティングを行うには、顧客や市場を正しく分類することが重要です。その代表的な手法が「クラスター分析」です。クラスター分析を活用すれば、膨大な顧客データの中から似た特徴を持つグループを抽出でき、効率的なセグメンテーションやOne to Oneマーケティングを実現できます。
この記事では、クラスター分析とは何か、種類・手法・手順からBtoBマーケティングでの活用方法まで詳しくご紹介します。
- ▼この記事でわかること
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- クラスター分析の基礎知識
- クラスター分析の種類と手法
- クラスター分析実施の手順と注意点
- クラスター分析をBtoBマーケティングで活用する方法

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Contents
クラスター分析とは?
クラスター分析とは、データを類似性に基づいてグループ(クラスター)に分ける統計的な分析手法です。クラスターは英語で「群れ・集団」を意味し、膨大なデータの中から似た特徴を持つ要素をまとめることができます。
たとえば、顧客を購買行動や属性ごとに分類し、同じ傾向を持つグループを抽出することで、マーケティング戦略や商品開発に役立てられます。特にBtoBマーケティングにおいては、ターゲット企業の規模・業種・行動特性を軸に分類し、より精度の高いセグメンテーションを行う際に活用されます。
クラスター分析の種類(階層・非階層)
クラスター分析には大きく分けて、「階層クラスター分析」「非階層クラスター分析」の2つの手法があります。
階層クラスター分析
階層クラスター分析は最も距離の近い、似たもの同士から順番にまとめていき、最終的に1つの集団にまとめる手法です。
分類の切り口はさまざまで、性別、年代、収入、職業などの属性はもちろん、意識や行動特性といった観点で分類することもあります。最も似ているもの同士の結合を繰り返すことで、最終的に樹形図ができあがります。
この樹形図から、対象がいくつのクラスターに分類されるか、どのクラスター同士が、どのように結合されるかという階層関係を一目で判断できます。
- 活用ケース
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- 小規模データを扱う市場調査で、消費者の購買動機や嗜好を段階的に把握する。
- 顧客インタビューやアンケート結果を集約し、共通する課題やニーズを整理する。
- BtoBマーケティングで、見込み顧客の「企業規模 → 業種 → 課題」という階層構造を明確にする。
非階層クラスター分析
階層クラスター分析は有効な分析手法ですが、分析対象とするサンプルが膨大になると、分類が困難な場合も少なくありません。このような場合には非階層クラスター分析が用いられます。
非階層クラスター分析は、あらかじめ「いくつのクラスターに分けるか」を設定しておき、階層クラスター分析のような階層関係にはこだわらず、決められた数にサンプルを分類します。
この非階層クラスター分析は、サンプル数が大きい場合でも分析できるため、マーケティングリサーチの結果を分析するときによく利用されます。アンケートの回答パターンが似ている回答者を同じグループに分けるなどの活用例があります。
- 活用ケース
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- 数千件規模のアンケート回答を、回答パターンが似ているグループに分類する。
- Webサイト訪問履歴をもとに、ユーザーを「情報収集型」「比較検討型」「購買直前型」といった行動パターンに分ける。
- BtoB企業のリード情報を業種や従業員数別にクラスタリングし、営業リソースを最適に配分する。
階層クラスター分析と非階層クラスター分析の使い分け
クラスター分析には「階層クラスター分析」と「非階層クラスター分析」があり、データの規模や目的によって使い分けが必要です。以下の表でそれぞれの特徴を整理しました。
階層クラスター分析 | 非階層クラスター分析 | |
---|---|---|
適したデータ規模 | 小規模〜中規模 | 大規模データに強い |
クラスター数 | 自動的に樹形図から判断可能 | あらかじめクラスター数を指定 |
可視化 | 樹形図で形成過程を把握できる | クラスター構造は見えにくい |
活用シーン | 顧客の購買プロセスや意識調査など、階層的な関係を把握したい場合 | アンケートやWebログのようにデータ数が多く、効率的な分類が必要な場合 |
クラスター分析の代表的な7つの手法
ここでは、階層クラスター分析と非階層クラスター分析のそれぞれに含まれる代表的な手法を紹介します。
クラスター分析には複数の手法が存在し、それぞれで得られる結果や適したデータの特性が異なります。手法ごとの特徴を理解することで、分析の目的やデータに応じて最適な方法を選択でき、マーケティングや顧客分析の精度を高めることができます。
階層クラスター分析の手法
- 最近隣法
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最近隣法は、2つのクラスター間の最も近い点同士の距離を基準にしてグループ化します。データポイント間の距離を最小化するため、地理的な分布や行動の類似性を捉えるのに向いています。たとえば、顧客の購買行動を地理的に分類したり、近隣に位置する販売拠点をグループ化したりする場合に有効です。
しかし、連鎖的にクラスターが拡張するチェーン現象が発生しやすいため、複雑なデータには適していない場合があります。
- 重心法
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重心法では、クラスターの重心を計算し、それを基準に新しいクラスターを形成します。この手法はクラスター間の全体的な傾向を比較する際に適しており、マーケティングにおける顧客セグメンテーションや製品ポジショニングで役立ちます。
たとえば、複数の属性(年齢、所得、購買履歴など)を持つデータを基にして、顧客の「典型的な特徴」を把握し、各セグメントの中心点を分析できます。ただし、データが極端に偏っている場合や外れ値が含まれる場合には結果が歪む可能性があるため、慎重なデータ前処理が必要です。
- 最遠隔法
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最遠隔法は、2つのクラスター間の最も遠い点同士の距離を基準にしてグループ化します。この方法は、クラスター内の一貫性を重視する場面に適しています。特に、異なる特性を持つグループを明確に分離する必要がある場合に効果的です。
たとえば、市場セグメンテーションで、極端に異なる購買行動を示す顧客をグループ化する際に使用できます。しかし、データにノイズや外れ値が多い場合、この方法が過度に敏感になるため、結果が不安定になるリスクがあります。
- メディアン法
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メディアン法はクラスター間の距離を中央値で計算するため、外れ値の影響を軽減する特徴があります。この手法は、価格帯や消費者満足度のようなデータのばらつきが大きい場合に有効です。
たとえば、調査データを分析する際、外れ値に影響されずにクラスターを形成することで、データの一般的な傾向を正確に捉えることができます。ただし、計算がやや複雑であり、大規模データセットには向いていない場合もあります。
- 群平均法
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群平均法は、クラスター間のすべてのデータ点の距離の平均を基準にグループ化する手法です。この方法は、クラスターの形状やサイズが均等であることを重視する場合に適しています。特に、多次元のデータを扱う際に安定した結果を得やすいため、顧客セグメンテーションや広告ターゲットの選定に効果的です。
また、最近隣法や最遠隔法の極端な特性を緩和する中間的な手法としても位置づけられます。そのため、クラスターのバランスが重要な場合に好まれます。
- ウォード法
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ウォード法は、クラスター内の分散を最小化することで、一貫性のあるクラスターを形成することを目的としています。この手法は、分析結果の安定性が高く、特にマーケティング分野で顧客セグメンテーションや製品の分類などに広く使用されています。
ウォード法は、大規模なデータセットでもクラスター内の一貫性を維持しやすいという利点がありますが、計算負荷が高いため、計算資源が限られている場合には実行に時間がかかることがあります。
非階層クラスター分析の手法
- k-means法
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非階層クラスター分析でよく用いられる手法がk-means法です。最初に適当なk個の核を選び、サンプルを核との距離によってk個のグループに分類します。そして、グループの重心を求めて新たな核とし、サンプルをk個のグループに分類することを、重心が移動しなくなるまで繰り返します。
回答者間の違いを明らかにし、マーケティング活動に役立てることが非階層クラスター分析の目的です。
クラスター分析の手法の使い分け
クラスター分析にはさまざまな手法があり、それぞれ得意とするデータ特性や目的が異なります。分析の精度・スピード・外れ値の有無・クラスター間の分離度などを基準に選ぶことが重要です。
1.精度重視かスピード優先かで手法を選ぶ
- ウォード法・群平均法
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分析結果の正確性が重要であれば、ウォード法や群平均法が適しています。クラスター内の一貫性が高く、安定した結果が得られるため「正確性」を重視した顧客セグメンテーションに適しています。
例:既存顧客を「業種」「企業規模」「購買履歴」で安定的に分類する
- 最近隣法・k-means法
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一方、大規模データで素早く結果を得たい場合には、最近隣法や非階層的手法(k-means)を検討します。計算負荷が軽く、大規模データを効率的に処理できます。大量のアンケートやWebログ分析に有効です。
例:数万件規模のアンケートやWebログを短時間で分析する
2.外れ値への強さで手法を選ぶ
- メディアン法・群平均法
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外れ値の多いデータには、メディアン法や群平均法のような手法が適しています。外れ値の影響を抑えられるため、価格データや満足度調査のようにバラつきが大きいデータに有効です。
例:アンケートで極端な回答が混じっている場合でも傾向を正確に把握
- 最近隣法・最遠隔法
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最近隣法や最遠隔法といった外れ値の影響を強く受ける手法では、結果が不安定になる可能性があります。外れ値に敏感で、ノイズが多いデータでは不安定になりやすいので注意が必要です。
3.分離度かバランスかで手法を選ぶ
- 最遠隔法
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クラスター同士の距離を明確にしたい場合は最遠隔法の活用が効果的です。クラスター間の違いを強調できるため、「差別化が重要な市場分析」や「明確に異なる顧客群を切り分けたい場合」に適しています。
例: 市場調査で「低価格志向層」「高品質志向層」といった明確に異なる購買層を分離する
- ウォード法・群平均法
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一方、全体のバランスを重視する場合はウォード法や群平均法が適しています。全体のバランスを重視し、均一で安定したクラスターを形成したいときに向いています。
例: 顧客データを「業種別」「企業規模別」に安定的に分類し、セグメントごとのマーケティング戦略を設計する
このように、クラスター分析は手法ごとに得意分野が異なるため、適切な使い分けが成功の鍵となります。分析目的を明確にし、データの特性を十分に理解したうえで手法を選択することが重要です。
クラスター分析のメリット・デメリット
クラスター分析のメリットとデメリットを詳しく説明します。
メリット
クラスター分析の最大のメリットは、データの隠れたパターンや構造を明らかにし、類似性に基づいてグループを形成できる点です。これにより、単なる平均や全体傾向の分析では見逃されるような、細かい特性や傾向を捉えることが可能になります。
特に、マーケティングや顧客分析では、対象が異質である場合に役立ち、類似した購買行動を持つ顧客を特定することで、ターゲティング広告や製品開発の方向性を定めることができます。
さらに、ウォード法や群平均法など複数の手法があるため、データの特性や分析目的に応じて最適なアプローチを選択できる柔軟性も備わっています。この多様性により、他の分析手法と比べても、応用の幅が広いといえるでしょう。
デメリット
一方で、クラスター分析にはいくつかの限界があります。まず、用いる手法や距離計算の基準に結果が大きく依存するため、解釈の主観性が伴うことがあります。同じデータでも、選択したアルゴリズムや距離計測によって異なる結果が得られるため、適切な手法を選ぶことが成功のカギとなります。
また、大規模なデータセットに対しては、計算量が膨大になる傾向があります。階層的クラスター分析では、データの組み合わせすべてを評価する必要があるため、データ量が増加するにつれて計算コストが上昇します。
最後に、クラスター分析はデータの背後にある因果関係を説明するものではないという点もデメリットの1つです。クラスターが形成された理由や、その背後にある要因を明らかにするためには、回帰分析や因子分析といった他の手法との組み合わせが必要です。
クラスター分析の実施手順
ここでは、クラスター分析を実施する際の手順について見ていきましょう。分析手順は以下の流れで進めていきます。
- 分析方法の選択
- 類似度の定義
- 手法の選択
- 結果の解釈・活用
1.分析の種類を選択する
まずは、階層型クラスター分析と非階層型クラスター分析のどちらの分析方法を採用するかを決定します。
階層型クラスター分析は、データの階層的な構造を明らかにする方法です。小規模なデータセットや、クラスターの形成過程を詳細に観察したい場合に適します。一方、非階層型クラスター分析は、事前に決めたクラスター数に基づいてデータをグループ化します。
この方法は計算効率が高く、大規模データセットに適していますが、クラスター数を事前に決める必要があります。したがって、この段階では、分析対象のデータ量や、階層的な構造の重要性、計算コストなどを考慮して、適切な分析の種類を選択します。
2.類似度の定義を決める
クラスター分析の中心は、データポイント間の「類似度」または「距離」をどのように測定するかにあります。類似度の定義方法は、分析結果に大きな影響を与えるため、慎重に選択することが重要です。
類似度は、一般的に以下のような距離尺度を用いて定義されます。
- ユークリッド距離
- データポイント間の直線距離を基準にします。数値データで連続的な測定値を持つ場合に適しており、重心や空間的な位置関係を重視する場合に多用されます。
- マンハッタン距離
- データポイント間の座標の絶対差の合計を基準にします。経路が直線ではなく、縦横方向での移動を重視する場合に使用します。
どちらの距離尺度を使用するかは、データの性質や分析目的に応じて決定します。
3.分析手法を選択する
クラスター分析では、データポイントをどのようにグループ化するかを決めるための手法を選択する必要があります。この選択は、分析の種類や類似度の定義に基づき、最適な方法を決定します。
- 階層型クラスター分析
- 階層型クラスター分析では、データポイントを結合する基準となる方法を選びます。たとえば、最近隣法・最遠隔法・群平均法などがあります。
これらの手法は、それぞれ異なる特徴を持つため、データの形状やクラスター内の均一性を考慮して選択します。
- 非階層型クラスター分析合
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非階層型分析の手法であるk-means法は、クラスターの重心を基準にしてデータポイントを反復的に割り当てる方法で、計算効率が高く、数値データに適しています。
手法の選択は、データの分布、外れ値の有無、クラスター数の決定方法などに基づいて行われます。たとえば、クラスター数が未知の場合や計算負荷が許容される場合は階層型が有利ですが、大規模データで効率を求める場合は非階層型が適しています。
4.結果の解釈と活用
クラスター分析は、単にデータを分けること自体が目的ではなく、その結果をどのようにマーケティング施策や営業活動に活かすかが重要です。たとえば、顧客をクラスターごとに分類することで、それぞれに適したメールキャンペーンを配信し、エンゲージメントや成約率を高めることができます。
また、営業リソースの配分にも活用でき、優先度の高いクラスターに重点的にアプローチすることで効率的な商談化が可能になります。このように、クラスター分析の成果は実務に直結する形で活用してこそ、真の価値を発揮します。
クラスター分析を活用する際の注意点
クラスター分析は強力な手法ですが、実施にあたってはいくつかの注意点があります。特に、階層クラスター分析と非階層クラスター分析では留意すべきポイントが異なります。
階層クラスター分析を行う際の注意点
階層クラスター分析は、極めて多くのデータを対象とする調査には向かないことです。膨大な計算を伴うために分析が困難になったり、樹形図が大きくなりすぎて分析結果が分かりにくくなったりすることがあります。
そのため、比較的サンプル数が少ないデータや、クラスター形成の過程を丁寧に観察したい場面で活用するのが効果的です。大規模データの場合には、非階層クラスター分析を選択する方が効率的です。
非階層クラスター分析を行う際の注意点
非階層クラスター分析は、あらかじめいくつかのクラスターに分けるか決定しておかなければならない点です。具体的な仮説や目的が不明確なまま分類すると、結果の解釈が難しくなります。そのため、「どのような顧客群を想定して分類するのか」「何を意思決定に活かすのか」といった目的を事前に定めたうえで実施することが重要です。
BtoBマーケティングでの活用事例
BtoBにおいても、One to Oneマーケティングの重要性は高まっています。営業担当者とのやり取りを介さなくても、見込み顧客は自らインターネットを通じて情報収集を行い、比較検討の候補を絞り込んでいきます。そのため、自社を選んでもらうには、各顧客に適した情報提供が欠かせません。
その実現のために有効なのがクラスター分析です。同じクラスターに属しているということは、企業属性や課題、検討段階が似通っている可能性が高いことを意味します。たとえば、製造業で「コスト削減」に課題を抱えるグループと、「新規市場開拓」に関心を持つグループを分けて、それぞれに異なるホワイトペーパーや導入事例を提示すると効果的です。
また、クラスターごとに求められるアクションを予測し、メール配信の内容を変えたり、ウェビナー招待を最適化したりすることで、アプローチの精度を高めることができます。さらに、分析によって他社がまだ注目していない新たな市場セグメントを発見したり、自社や競合のポジショニングを明確化したりすることも可能です。
テストマーケティングにおいても、クラスターごとにサンプルを選出することで、より効率的かつ実践的な検証が行えるようになります。結果として、営業活動の無駄を減らし、成約率を向上させることにつながります
おわりに
今回は、クラスター分析とは何か、BtoBマーケティングでの活用方法ついてご紹介しました。クラスター分析で顧客を細かく分類し、効果的なアプローチ方法を検討することができます。目的を明確にしたうえで分析に取り組み、マーケティングの成果につなげましょう。