顧客単価やLTV(顧客生涯価値)を高めるための手法として、「アップセル」と「クロスセル」は営業やマーケティングにおいて欠かせない存在です。しかし、それぞれの違いや、どのような場面で使い分けるべきかが曖昧なままなんとなく提案してしまっているケースも少なくありません。
そこでこの記事では、アップセルとクロスセルの意味や違いを明確にし、具体的な事例や効果的な活用シーン、成功させるためのポイントまでをわかりやすく解説します。売上アップや顧客満足度の向上を目指す方は、ぜひ最後までご覧ください。
- ▼この記事でわかること
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- アップセルとクロスセルの基本的な概念と違い
- アップセルとクロスセルが効果的なシーン
- アップセルとクロスセルを成功させるポイント
- アップセルとクロスセルの成功事例

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Contents
アップセルとは何か?その定義と特徴
アップセルとは、顧客が購入したものや購入を検討している商品やサービスよりも上位品や高価格帯の商品を提案することで、取引単価を高める販売手法です。たとえば、クラウドサービスの利用者に対して、より多機能なプレミアムプランへの移行を提案するケースなどがあります。
アップセルの最大の特徴は、「同じ商品カテゴリー内でより価値の高い選択肢を提示する」点にあります。顧客のニーズを満たすだけでなく、「より良い体験が得られる」ことを訴求することで、自然な形で購買金額を引き上げることができます。
また、すでに購入を検討している顧客への提案となるため、新規顧客を獲得する場合に比べて提案のハードルが低く、効率的に売上向上が図れるのもアップセルのメリットです。
アップセルの具体例とその効果
アップセルは、顧客の満足度を高めながら売上を拡大できる有効なアプローチです。ここでは、BtoBビジネスにおける具体的なアップセルの例と、そこから得られる効果をご紹介します。
- 無料プランから有料プランへの移行提案
- SaaSなどのサブスクリプション型サービスにおいては、無料プランを利用している顧客に対し、機能制限の解除やサポート強化を理由に有料プランへの移行を促すケースがあります。この手法により、無料ユーザーから収益を得られるようになります。
- 上位プランへの提案
- すでに有料プランを利用している顧客に対して、より多くの機能や容量を備えた上位プランを提案するのも効果的なアップセルです。たとえば「スタンダードプラン」から「プレミアムプラン」への移行を促すことで、単価向上とともに顧客の業務効率改善にもつながります。
- 契約カウントの増加提案
- 企業向けサービスでは、利用者数や契約アカウント数の追加提案もアップセルに該当します。導入部署の利用状況を踏まえて「他部署でも活用できます」といった提案を行うことで、顧客側の導入効果を高めつつ、自社の収益も拡大できます。
- アップセルによる効果
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アップセルによって得られる主な効果は、以下の通りです。
- 顧客単価の向上
- LTV(顧客生涯価値)の最大化
- 既存顧客からの売上増加による営業効率アップ
- 満足度や業務改善の強化によるリテンション率向上
アップセルは、顧客にとって「よりよい選択肢」であることが前提です。ニーズを的確に捉えた提案を行えば、売り込み感なく売上と信頼の両方を獲得できます。
クロスセルとは何か?その定義と特徴
クロスセルとは、顧客が購入を検討している商品やサービスに関連性のある別の商品をあわせて提案し、取引全体の売上を高める販売手法です。
アップセルが「より高価な選択肢をすすめる」のに対し、クロスセルは「別の商品を組み合わせて提案する」という点で異なります。顧客のニーズや利用シーンに合わせて関連商品を提示することで、「それも一緒に購入したい」という自然な購買行動を引き出すことが可能です。
クロスセルの最大の特徴は、すでに購買意欲の高い状態にある顧客に、付加価値を提供できる点にあります。必要性のある提案であれば、売上アップと同時に顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
クロスセルの具体例とその効果
クロスセルは、顧客の購買意欲が高まっているタイミングで、関連する商品やサービスを提案することで、売上の最大化と顧客満足度の向上を同時に実現できる手法です。ここでは、代表的なクロスセルの例と、それによって得られる効果を紹介します。
- 関連商材のレコメンド
- 顧客がある商品を購入しようとしている際に、その商品と相性の良い関連商材をおすすめするパターンです。
たとえば、マーケティングツールを導入する顧客に対して、あわせて利用できるデータ連携ツールやレポート作成ツールを提案するようなケースが該当します。顧客は必要なものを一括で揃えることができ、自社は取引単価の向上が期待できます。
- セット購入特典の提供
- 複数の商材をセットで購入することで割引や特典を受けられるようにするのも、クロスセルの一種です。たとえば、ソフトウェアのライセンスとあわせて初期設定サービスや研修パッケージを提供するといった提案により、顧客にとっては導入の手間が減り、自社にとっては追加売上につながります。
- クロスセルによる効果
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クロスセルには、以下のような効果があります。
- 平均取引額の増加
- 顧客満足度の向上
- リピート購入・継続契約につながる関係性の強化
ポイントは、単に商品を追加で売るのではなく、顧客にとって「一緒に買うと便利・効果的」と感じられる提案にすることです。顧客目線でのメリットが明確であるほど、クロスセルは成功しやすくなります。
アップセルとクロスセルの違いを理解する
アップセルとクロスセルは、どちらも売上向上を目的とした販売戦略ですが、そのアプローチには明確な違いがあります。
アップセル | クロスセル | 定義 | より高価格・上位プランの商品を提案する | 顧客に関連商品を追加で提案する | 目的 | 単価の引き上げ | 購買点数・取引金額の増加 | 例 |
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効果 | 顧客単価の向上、顧客満足度の向上 | 売上拡大、利便性の向上、長期的な関係構築 |
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アップセルは、「より高額な商品・上位プラン」を提案することで顧客単価を引き上げる施策です。一方、クロスセルは、購入を検討している商品に「関連する別商品」を追加で提案し、取引全体の金額を増やします。
たとえば、ある顧客がクラウドサービスの基本プランを選ぼうとしている場合、アップセルでは「プレミアムプラン」を提案し、クロスセルでは「導入支援パック」などの周辺サービスをすすめる、という使い分けになります。どちらも顧客のニーズをしっかり捉えていることが前提であり、「満足度を高めながら収益を増やす」という共通の目的があります。
マーケティング戦略における使い分けのポイント
アップセルとクロスセルは、それぞれ最適なタイミングと対象があります。効果を最大化するには、マーケティングや営業の中で使い分けを意識することが重要です。
アップセルは、「より高い価値を求めている顧客」に対して有効です。たとえば、すでに一定の利用実績がある顧客や、機能に不満を感じている顧客に対して、「上位プランなら解決できる」という提案が効果的です。
一方でクロスセルは、「現在の購買行動に付加価値を加えられる場面」に適しています。
初めての契約時や更新タイミングなど、顧客が情報収集をしている段階で関連商品を紹介することで、自然な形で購買点数や金額を増やすことができます。
顧客の行動や状況を把握し、それに応じて最適な提案を行うことが、アップセル・クロスセル双方の成果を高めるカギになります。
ダウンセルが有効な場合も
アップセルやクロスセルがすべての顧客に通用するとは限りません。予算の都合やニーズの違いから、高額プランや追加商品を避けたい顧客には、「ダウンセル」という選択肢が有効な場合もあります。
ダウンセルとは、本来提案していた商品よりも価格を抑えたプランやシンプルな代替商品をすすめる施策です。たとえば、高機能なツールに難色を示す顧客に対して、機能を絞ったライトプランを提案するなどが該当します。
一見、売上が減ってしまうように感じられますが、提案の柔軟性を持たせることで離脱防止や顧客獲得につながるのがダウンセルの強みです。アップセル・クロスセルだけでなく、ダウンセルも含めて提案の選択肢を持っておくことで、より多様な顧客のニーズに応えられるようになります。
アップセル・クロスセルを実施する3つのメリット
アップセルやクロスセルは、単なる売上アップの手段にとどまらず、顧客との関係性を深めながら効率的なビジネス成長を支える重要な施策です。ここでは、代表的な3つのメリットを紹介します。
効率よく収益化できる
新規顧客の獲得には時間とコストがかかりますが、すでに接点のある顧客に対してアップセルやクロスセルを実施することで、営業・マーケティングコストを抑えつつ収益を最大化することが可能です。
特にBtoB領域では、導入済みの顧客に対する追加提案はスムーズに進みやすく、限られたリソースで成果を上げる手段として非常に有効です。
LTVの向上が見込める
アップセル・クロスセルは、顧客単価を上げるだけでなく、継続利用や再購入のきっかけにもなるため、顧客生涯価値(LTV)の向上につながります。たとえば、関連商材の導入により利用満足度が上がれば、解約率の低下や契約期間の延長といった好循環が期待できます。結果として、中長期的な収益基盤の強化に寄与します。
LTVについては、以下の記事で詳しく解説しています。
業務の効率化
クロスセルによって、顧客に必要な商材やサービスを一括で提供できるようになると、運用やサポート対応が一本化され、社内の業務効率化にもつながります。また、アップセルによって高機能なツールやサービスに移行してもらうことで、トラブルの減少や対応品質の標準化といった副次的な効果も得られる場合があります。
このように、アップセル・クロスセルは「売上拡大」だけでなく、「顧客満足」「業務効率化」など、複数の観点でメリットがある施策です。企業全体の成長を支える仕組みとして、戦略的に活用することが重要です。
アップセル・クロスセルが効果的なシーンとは?
ここでは、アップセルやクロスセルを実施する適切なタイミングについて解説していきます。
アップセルが効果的なシーンとは?
アップセルの効果を最大化するには、顧客の心理や行動に応じた適切なタイミングで提案することが重要です。ここでは、特に効果が出やすい代表的なシーンを紹介します。
- 購入直前・契約前
- 顧客が商品やサービスの購入を決めようとしている段階では、価値の比較やプランの検討が活発に行われています。このタイミングで上位プランのメリットを明確に伝えることで、「せっかく導入するなら上のプランにしよう」という判断を後押しすることができます。
- 初回購入・導入後
- 初回導入後、顧客がサービスの効果を実感し始めた段階は、アップセルに適切なタイミングといえます。「もっと活用したい」「さらに成果を出したい」と感じているタイミングに、上位プランや追加機能を提案することで、自然な形でアップグレードを促せます。
- 顧客のニーズ・利用状況が変化したとき
- 事業規模の拡大やチームの増加など、顧客の状況が変わったタイミングもアップセルの提案に適したタイミングです。利用データをもとに、「現在のプランでは機能が不足し始めている」といった根拠を提示することで、より高機能なプランへの移行を提案しやすくなります。
- 契約更新時
- 契約更新のタイミングは、利用実績の振り返りと今後の活用について話す機会でもあるため、アップセルのチャンスです。現状の効果を確認したうえで、さらに成果を伸ばすための上位プランや追加機能の提案を行うことで、より前向きなアップセルにつなげることができます。
このようにアップセルは「顧客にとっての価値を高める提案」であることが前提です。売り手の都合だけでなく、顧客のタイミングとニーズに寄り添った提案が成功のカギとなります。
クロスセルが効果的なシーンとは?
クロスセルは、顧客の課題をより広くカバーし、満足度と売上を同時に高められるアプローチです。成功させるには、顧客の行動や状況に応じた適切なタイミングで提案することが重要です。ここでは、特にクロスセルが効果を発揮しやすい3つのシーンを紹介します。
- 購入直後・契約後
- 顧客が購入や契約を終えた直後は、商品やサービスへの関心が最も高まっているタイミングです。このときに、「一緒に使うと便利な商品」や「導入効果を高めるサービス」を提案することで、自然な形でのクロスセルが可能になります。たとえば、ソフトウェア導入後に初期設定サポートや操作トレーニングを案内するなどが有効です。
- 顧客から質問・相談があったとき
- 顧客から使い方や他の製品に関する質問・相談があった場合、その内容に応じて関連商材を提案できるチャンスです。「お困りごとに対する解決策」として提案することで、売り込み感を出さずにクロスセルが実現できます。特にBtoBの場合は、顧客の課題に寄り添う提案が信頼関係の構築にもつながります。
- サポート対応の場面
- テクニカルサポートやカスタマーサポートの対応中も、クロスセル提案のタイミングといえます。たとえば、「稼働を安定化させる支援サービス」や「運用負荷を下げる代行サービス」など、顧客の負担軽減につながる選択肢として案内することで、前向きな受け入れを得やすくなります。
クロスセルを成功させるには、顧客目線で「役立つ提案」になっているかがカギとなります。価値を届ける姿勢を持つことで、顧客満足と売上の両立を実現できます
アップセル・クロスセルを成功させる4つのポイント
アップセルやクロスセルを効果的に実施するには、単に商品やサービスを提案するだけでは不十分です。顧客との関係性やニーズに配慮しながら、最適なタイミングと方法でアプローチすることが求められます。ここでは、アップセル・クロスセルを成功に導くための4つのポイントを紹介します。
1.顧客ロイヤルティを意識する
アップセルやクロスセルは、信頼関係が構築されていることが前提です。購入や契約を重ねるほどに、顧客との接点も増え、提案のチャンスも広がります。長期的な視点でロイヤルティを高める施策を取り入れることで、より自然な形での提案が可能になるでしょう。
2.顧客心理を理解する
顧客がどのような課題を抱えているのか、どのような目的で商品・サービスを利用しているのかを把握することが重要です。「今の状態にどんな不満や期待があるか?」を深く理解し、それに応じた価値ある提案を行うことで、無理のないアップセル・クロスセルにつながります。
3.実施するタイミングを見極める
提案のタイミングは成果を大きく左右します。たとえば、導入直後の満足感が高いときや、契約更新の前後など、顧客が前向きな意思決定をしやすい時期を狙うことで、提案の成功率が高まります。
適切なタイミングで行うことで、「押しつけ」ではなく「提案」として受け入れてもらいやすくなります。
4.実績や成功事例データの活用
提案の際には、他の顧客での成功事例や定量的な成果を示すことで説得力が増します。たとえば、「上位プランに切り替えたことで業務効率が30%向上した」といった具体的な実績は、顧客の不安を払拭し、納得感を与える材料になります。
信頼性のあるデータは、提案の質を大きく高めてくれます。これらのポイントを意識して提案を行うことで、顧客満足度を損なうことなく、収益向上につながるアップセル・クロスセルが実現できます。
アップセル・クロスセルにおけるNPSの役割
NPS(ネット・プロモーター・スコア)は、顧客が自社をどれだけ推薦するかを示す指標で、アップセル・クロスセル戦略にも大きな影響を与えます。特に高NPSスコアを持つ顧客は、すでに自社の製品やサービスに満足しており、追加の提案に対しても前向きに反応しやすい傾向があります。
この層に対しては、顧客の成功体験をさらに高める提案が効果的です。たとえば、現在利用している製品のアップグレードや関連商品を紹介することで、より高い価値を提供できるでしょう。
また、高NPS層は他の顧客への影響力が強いため、積極的な提案がブランドの信頼感を高める役割も果たします。実際に、満足度の高い顧客にこそ、アップセルやクロスセルを通じて、長期的な収益を見込むことができます。
アップセル・クロスセルに成功した企業事例
ここでは実際に成功を収めた企業の具体例を挙げ、どのような施策が効果的だったのかを解説します。
①Amazon
Amazonは、アップセル・クロスセルの典型的な成功事例です。顧客が商品を購入する際、「関連商品をおすすめ」することで、クロスセルを促進しています。たとえば、ある商品を購入した顧客に対して、その商品と一緒に購入されやすいアイテムやセット商品をレコメンドする仕組みを導入しています。
また、Amazon Primeへのアップセルも非常に効果的で、既存の顧客に対して便利さや特典を強調し、登録を促進しています。
②Adobe
Adobeは、サブスクリプション型のビジネスモデルを採用しており、アップセルやクロスセルの戦略を取り入れています。たとえば、Adobe PhotoshopやIllustratorなどの主要ソフトウェアを利用している顧客に対して、他の製品や機能をセットで提案することでクロスセルを促進し、ユーザーがより多くのAdobe製品を利用するように誘導しています。
また、サブスクリプションのプランをアップグレードすることで、より多機能を提供し、顧客ニーズに対応しています。
これらの企業は、顧客の行動やニーズを分析し、それに基づいてパーソナライズされた提案を行うことで、アップセル・クロスセルの成功につながっているといえます。ビジネスの規模や業種によって最適なアプローチは異なりますが、顧客の視点を意識した提案が共通して成果を高めているのです。
まとめ
アップセル・クロスセルは、顧客に対して適切なタイミングで追加の価値を提案するマーケティング手法です。成功するためには、顧客のニーズを理解し、満足度の高い顧客に向けて提案することが重要であるといえます。
効果的なアップセル・クロスセルは、長期的な顧客関係を築き、LTV(顧客生涯価値)を高めるための強力な手段となります。